光のあたらぬ手帳


手術の前の一服です。

娘たちは、お弁当を食べはじめています。

見映えに方は、到底、家人のように可愛く出来ませんが、

みんなで美味しそうに食べてくれています。

朝、お一人程、診察して、その間で机のなかの整理を終わらせて

上の娘に明け渡しました。

古い手帳が出てきました。

同じものを昨年か一昨年、誕生日のプレゼントで患者さんから頂きましたが、

まったく同じモノをだいぶん昔に見つけていました。

【三枝文庫】と題された、なかは白紙の文庫本風の手帳です。

家人と知り合った当時に入手したモノです。

家人とは随分と歳が離れています。

当然、私が先にあの世に召されます。

その時に、私の遺品の中から見つけた時に、

長い期間を独りで暮らすことになる家人の、私との会話として支えに成ろうと認めていたモノです。

昔人間の職人ですから、照れ臭くて上手く口には出せない言葉が沢山ありました。

また、家人の欠点も一番よく判っています。

冷たい世間を独りで生きていかねばならなくなる家人の孤独感のために、

一緒に居るんだと感じて貰うために、

付き合った当時から何年か前までの間に、徒然に認めていたモノです。

見つかったら不味いと、隠していたを見つけて、

ハラハラと頁を捲り、

またもや大泣きした私です。

最早、これを家人が読める機会があるかどうか判りません。

本当によく喧嘩もしましたし。

ごみ箱の中に放り込もうとしましたが、

やはり拾い出してしまいました。

歯科への私の情熱は凄まじいモノです。

私の人生において全てをかけたのは、

キザな言い方ですが、歯科と家人でした。

子供たちに支えられて、歯科に没頭して過ごしています。

ー パパ!手術、頑張って! ー

子供たちから励まされました。

が、もう一人、そう言ってくれる人が側には居ないことを淋しく思います。

観音様のお顔を見て、よし!と、気合いをいれて頬を叩いて手術室へと向かいます。