歯と日本刀


日本刀と聞けば、

誰しも、その形くらいは想像できると思います。

今時は、

日本刀など、

そんなに関心ない工芸品程度のモノかもしれません。

あるいは、

そんな武器など危険極まりないと、

敬遠されるかもしれません。

が、

私は日本刀に魅了される者です。

ただし、

私が美しいと感じる日本刀は、

あまりにも高価過ぎて、

手に入る代物ではありませんから、

あくまでも、

博物館や写真での、

眺めての高値の華的存在ではありますが。

日本刀は鋼( はがね  ) でできています。

この鋼は、元来は鉄です。

刀鍛冶は、

鉄を火に入れ、

赤く燃えた鉄の塊を叩いて叩いて、

その繰り返しから、

刀を造ります。

刀鍛冶から叩かれることで、

鉄は鋼へと質的変化を起こします。

叩かれることで、

鉄のなかの不純物が除去され、

プュアな鋼へと変化するのです。

通常、金属は加工される過程において、

液体にまで溶解されるのが常ですが、

日本刀だけが、

液体に溶解されることのない、

普遍ではない過程を踏まれます。

その結果、

あの鍛え上げられた金属結晶の変化が生じるのです。

この刀鍛冶の技の結晶は、

21世紀の進歩したテクノロジーにて調整された

コンピューター制御の炉でさえも、

決して造ることが出来ません。

人の経験からくる技の真骨頂が刀鋼だと思います。

刀鍛冶は、

火に入れた鉄が、

太陽の紅に似せて焼き入れるのだそうです。

古来、太陽は神さまです。

其れを尊ぶゆえに、

鍛冶場には、

しめ縄が観られるのです。

また、

古来、刀には神さまが宿るとも言われています。

私も、そう信じています。

私は歯に、

日本刀を重ねて観ています。

刀鍛冶が鋼の声を聞くように、

私も歯の声が確かに聞こえるからです。