頃合い


今では判った顔して、

それなりに大人の男を演じているものの、

実際には、

幼い頃から何にも変わっちゃいません。

好奇心も相変わらず。

幼い頃、

神社仏閣参りが好きだった私は、

今でも、

夏の酷しい日射しと蝉時雨の中に立つと

思い出すのです。

静まりかえった寺の中。

都合の良いことに、

留守番婆さんは不在の様子。

そ~と、

本堂の奥の、

祈祷台の向こう側まで、

そぞろ歩き。

で、

ご本尊さまを安置したる大きな蓋に手をかけて、

そ~と、

開いて秘かにご本尊さまのお顔を

仰ぎ観るのです。

何でも次の御開帳は30年も先のことと云う。

それならば、

とっくに大人になってしまうじゃないかと。

手をあわせて日頃を感謝するのに、

仏さまが怒る筈はないだろう!という。

観るなと云われれば、

観たくなるのが、

私の性分だったのです。

時代劇の忍びの者に影響され、

家の天井裏に上がって、

足元誤って、

大きな穴を空けたことも在りましたっけ。

こんな様子ですから、

家でも、

学校でも、

しょっちゅう叱られていました。

医局時代でも、

よく叱られていましたね。

国道を走行中に、

前をトロトロ走る白いセダンに苛ついて、

シュパッっと、

追い抜きかけて疾走したら、

翌日、

突然に教授からの呼び出しを受けたのです。

気の毒そうな表情で私を観る秘書の顔つきを

今でも覚えています。

白いセダンの主が、

なんと私の指導教授その人だったのです。

師匠の車を追い抜くとはナニゴトか!

師の影を踏まず!

風呂に入ったら師匠の背中を流せ!

茹で蛸のように顔じゅう紅潮させて怒鳴りまくる

私の指導教授に、

直立不動の姿勢で両の手の先までピンと伸ばし、

神妙な趣でうつ向き

大いに聞く姿勢を見せるものの、

余りにも大人気ない口上に、

下唇を上の前歯で噛んで、

笑いを堪えるのが大変でした。

ですから、

私も幼なかったですが、

この指導教授は、もっと幼子であったように思います。

この指導教授の話しをすれば限りありませんよ。

私が学生時代だった頃には、

超ヘビースモーカーであったこの指導教授。

90分の講義の間に中座して、

教室前のロビーで喫煙タイム。

それがご自身が禁煙を始めてからは、

ありとあらゆる処は絶対禁煙とし、

煙草の煙を見れば、

手で払い退けるほどの変貌ぶり。

こういう処は、

至る処で発揮され、

スキーにハマれば、

日曜日の早朝、

私などはご自宅までお迎えの運転手。

おう!三枝!

歯科保存学を制するためにはスキーは必須!

と、

訳の判らぬ自説を延々と。

私の車であるのに、

助手席で脚をフロントグリルに乗っけて、

缶ビールをグイグイ飲む始末。

今度はゴルフ。

自分のショットのあとは、

後ろに並びし弟子たちに、

ナイスショット !

と言わせるスタイル。

次にハマったのがダンス。

学会の親睦会にて、

ブラックタイの出で立ちで、

スーパー?ダンスをご披露に。

本当に恥ずかしい思いをしたもんです。

今でも、

ご当人を除くみんなが集まった際などには、

蛸と云う渾名で、

酒の肴にされているとも知らず、

良い意味でも、

色んな意味あいでも。

まぁ憎めない大人でしたね。

今、

テレビなんかでコンプライアンスって聞くでしょ?

私らの時代って、

今では全部アウト!でしょう。

ですから、

私なんぞ、

いつもハラハラしながら過ごしています。

私らの普通がハラスメントになりゃせんか?と。

でも反面、

厳しさも絶対に認められていた時代ですから、

医師教育と云う意味では、

当時に教育を受けた人間の方が

絶対に手が動くと思います。

なんでも程度、頃合いってなものが大切ですね。