命の歌

東京音楽大学ピアノ科の教授である武田真理先生よりも、

ご亭主の方とウマが合い、

旧知の間柄のようになりました。

真理先生の御母堂である武田宏子先生が

天に召されて初めての夏を迎えています。

宏子先生は長年の私の患者であったと共に

私の仕事人としての師匠でも在りました。

今でもしばしば、

何かにつけては、

宏子先生のお顔を思い出すのです。

そんなこんなで、

真理先生とも知り合い、

で、

ご亭主とも。

ご亭主は新潟県の出身です。

越後人は良いですよ!

真理先生とご亭主が知り合った頃の話しを聞きました。

ご亭主が真理先生に言ったんだそうです。

あんたらは判ったような顔で演奏しているが、

俺に言わせりゃ、

全然駄目だね!

そんでもって、

真理先生の腕をつかんで、

連れてった処が、

荒れ狂う冬の日本海。

操業する漁船に乗っけたのだそうな。

3日3晩眠っていないフラフラの海の男たち。

いつ船から転げ落ちないかと、

そんな木葉のような大海原のなかの漁船群。

が、

その時レーダーに魚群の影が写ったのだそうな。

一気にライト群が点灯し、

海の男たちは動き出したのです。

で、

バックには北島三郎の歌が鳴り響く。

エイヤ!サッ!エイヤ!サッ!

男たちは活きた肉の塊と化して、

網を引き揚げるのだそうな。

コレが本当の命の歌だ!

ご亭主は真理先生に叫んだのだそうな。

真理先生ですか?

ご本人によれば、

これにはマイッタわよね。

だって、

クラッシック音楽では

あの命のヤリトリはできないもの。

しかし、

ご亭主のこういう処が、

私は好きなんです。

最近、

ご亭主から電話を頂き、

先生、家人と婆さんの弟子で

良いプロになった奴らが居るんですがね。

チョッと、

相談のってやってくれませんか?

浪花節と都々逸なら

私も一言持ってはいますが、

クラッシックとなると、チョッと無理が在ると、

医局時代の恩師である山口隆二先生に回したのです。

結末ですか?

デュエットゥなるプロ演奏者の二人ですが。

CDを送って下さったので、

私も真面目に聴きましたよ。

なんでも山口先生は詳細なる感想文を

レポート用紙に記載して返されたそうです。

電話で私に感想を聞くデュエットゥ。

車に乗った時に聞いてます。

?????

車で聴いたら悪いんかい?

家にはお仏壇の横に

お経をかける

ポータブル機器しかねぇもん。

で、先生どうでした?

う~ん?

上手いね。

でも、

このご時世にお金を払って聴くかねぇ?

悪いけどな、

あんた、

津軽海峡冬景色をヤってくんねぇか?

命の歌だがね。

私は、

それも在りだと思うんです。

ピアノを自分の身体の一部のように

あれだけ操れるんですもの。

日本人の誰もが知ってる曲で、

聴いたことないような音出してくれたら

それこそ

命を震わせてくれたら

私はクラッシック音楽をみんなが振り向いてくれる

良いきっかけになると思うんです。

難しい手術の際に、

執刀する私のバックには、

都はるみですもの。

そんな話しをご亭主にしたら、

ヒャッヒャッ!

大声で笑って、

先生、良く言ってくれました!

そのあと、

北島三郎の祭りをアイツらに

弾かせてみようと、

私ら二人とも、

ドレミも弾けませんのに

大人の男二人のイタズラ心に火がついたのです。