浪花の人情


大阪の街で、

珍しい人に、

50年降りに再会したのです。

心斎橋の大丸の前のアーケードで、

突然に、

声をかけられたのです。

尚登ちゃん?

55の親父に尚登ちゃんはどうかと思います。

が、

確かに、

尚登ちゃんの主は、

この私です。

怪訝な表情だったのでしょうね、私の顔が。

が、

思い出したのです。

淀屋橋のうどん屋のお姉ちゃんではないか?

変わり果て、

すみません。

70をとっくに過ぎて居られるようでしたので。

何故、判ったンですか?

お尋ねしたら、

偶然に前に立つ息子が、

私に話しかける声と顔。

それで一気に

時が半世紀も前に遡ったのだそうな。

近くのお団子屋にて、

息子には聞かれたくはない話しで、

散々に笑われ、

また、

息子の心のなかにあった、

何処の家にでもある筈の疑いは

お姉ちゃんのお蔭でもって、

晴れて私は無実の身となったのです。

で、

大丸百貨店へと入り、

あれやこれやと、

講釈を受ける長い時間となりました。

お店は未だご健在のこと。

携帯電話が嫌いで持ちませんのです。

店の電話をお伝えしますと、

手を振って別れたあとに、

お姉ちゃん、

また駆け走り戻り、

晋太郎ちゃん、

うちは何時でもタダやさかい。

あぁ、浪花の人情は未だ健在であったことに

感動したのです。