師匠からの手紙・


夕刻、

院長室の机上の手紙の束を手にし、

1つずつドレ・ドレと、

眼を通しながら、

淡い黄色の横長封書の処で、

思わず姿勢を正したのです。

新潟市の岩下博美先生からの封書だったからです。

先生の御専門は歯科補綴学で、

私の学生時代は、

補綴学第2講座の助教授を務められておられました。

また、

新潟病院・総合診療科の初代臨床教授で、

私の師匠の一人でもあります。

歯科保存学専攻の私ですが、

生涯影響を受ける師匠は、

いずれも歯科補綴学が御専門であることは

他人目からすれば奇異に映るに違いありません。

しかし、

歯科補綴学、歯科保存学、

多少、視点が異なるだけで、

目標点は、同じナンですよ。

その辺りを、

若い歯科医師には理解して欲しいと思います。

学生時代、

先生から多くを学びました。

コラッ!

邪魔だから・アッチへ行けぃ!

手で払われつつも、

子犬のように先生の後を着いて回った頃が懐かしい。

ミケランジェロのミロのビーナスと、

ロダンの考える人の両彫刻の作製方法の違いから、

歯冠修復の製作方法を諭して下さったのも

岩下先生です。

後に知遇を得る事になる内藤先生の歯科医学を理解するための、

考える歯科医師へと誘って下さったのは、

岩下歯科医学に触れたからだと実感しています。

歯科治療という種別のものは、

表面からだけ観ても、

全く無意味ナノです。

その治療を行う歯科医師の理念や信念の理解を深めることが

とても重要な、理解の鍵になります。

石や粘土の塊に、

如何に【魂】を宿らせる事ができるのかが、

製作者の能力ナノだと。

私らの仕事は、

石工、刀鍛冶、焼き物士の類と、

ほぼ同類だと思うのです。

そこに医学をリンクする。

ソレが歯科医学なのです。

先生の手紙には、

粘膜静態印象の文献名が丁寧に記載されていました。

几帳面な文字を追いながら、

先生の姿が浮かんできます。

一見・物静かな先生ですが、

情熱の歯科医師であることを私は知っています。

朝の内藤先生との電話といい、

眼前の岩下先生からの手紙。

私は大いに思う処・ありました。

心ある歯科医師で居ようと。