月別アーカイブ: 2014年2月

私の患者さんとの関わり方 その2.

今は亡き書道家の榊莫山先生から一枚の葉書を頂いた事があります。

山の小さな祠の中の観音様が描かれて、その脇に莫山先生独特の字体で

【一生懸命励みなさい。芸の道に励みなさい】

振り返り観れば、当時は私にとって不遇な時代でした。

莫山先生からの思いもかけないお便りに、思わず涙した私でした。

【感動させたってや!】

という莫山先生の言葉が今でも熱く耳に残っています。

私はつくずく人との出会いの縁に恵まれました。

一歯一歯の治療の重さを噛みしめて、私は毎日、診療所のドアを開けて階段を登ります。

私の患者さんとの関わり方 その1.

歯科医である私が、患者さんの歯に関する悩みを解決するために
色々な角度から考える事は当たり前です。

折角、私の診療所までお越しになられた患者さんに対して
歯だけのお付き合いだけにはしたくないと思ってきました。

私を含めて人は様々な悩みを抱えています。
それは人が人として成長するためには必要な肥やしだと思います。

目の前の悩みから押し潰されそうになった時に、
心が折れそうになった時に
私が患者さんと共に在ると、患者さん自身に気づいて頂く様に接してきました。

私自身も人生の岐路に立った時に、大勢の患者さんに助けて頂きました。
また、現役の医師としての私なりの自信を持つに至った経験は
私の患者さんが私に治療させてくれたからです。

腕に善し悪しは、専門職である以上、上、上を目指さねばなりません。
しかしながら、人を診る仕事である以上、
人を愛する人でありたいと私は思っています。

予防歯科のすすめ その4.

【耳下腺唾液について】

私は歯科の治療に際して、患者さんの耳下腺唾液をとても重要視しています。

口の中は常に唾液によって湿った状態を保っています。

唾液は唾液腺という臓器によって造られます。
舌の付け根にある舌下腺。
顎の下にある顎下腺。
そして耳の前下方にある耳下腺。
これ等を大唾液腺と呼びます。
加えて、上顎の裏に多数の小唾液腺が点在しています。

通常の安静時には舌下腺、顎下腺、小唾液腺からの唾液によって
口の中は湿った状態を保っています。

食事の時や、梅干しなどの酸っぱいものをイメージした時に
ドワーと流れ出してくる刺激時唾液は耳下腺唾液です。

この耳下腺唾液はとても大切な働きをします。

人は生きていくために食事をします。
則ち、口の中に食べ物を入れます。

ここで要注意!
口の中には沢山の細菌が生活しています。
この細菌も生きていくためには栄養が必要です。
人が生きていくための食事が、細菌の絶好の栄養源となります。

人は食べ物を完全に消化し排便するまでに1日2日程度を要します。
ところが細菌は代謝が単純なために食べた瞬間に排泄します。

人の排泄物はメタンやスカトールという成分のために、あのような臭いがします。
対して、細菌のウンチは酸性成分です。

ですから、人が食べ物を口に入れた瞬間に口の中は酸性環境となるのです。

この酸に対して歯は無力です。
歯のエナメル質をもってしても溶け始めます。

人の身体は本当によく出来ています。

食べ物を咀嚼する行為が発端となりサラサラとした唾液が耳下腺から分泌され始めるのです。

この耳下腺唾液には酸性を中和させる働きがあります。
その事で酸性環境となった口の中は再び、中和されるのです。

ですが、人みんなが同じ様に多くの耳下腺唾液が出る訳ではありませんし、
酸性を中和させる能力も人それぞれです。

ですから私の診療所では患者さん皆の耳下腺唾液の質について検査して
各自の治療プログラムを作成しています。

インプラント治療を受けるにあたって その4.

私がインプラント治療を始めて25年ほど経ちました。

当時使っていたインプラントと今では違うインプラントを使っていますし、
患者さんからしてみれば違いは解らないかもしれませんが、
私のインプラント治療は年々、変化しています。

もちろん最新の文献やデーターは参考にしていますが、
私自身の患者さんの経過を慎重に観察して、
私は自分の治療方法にフィードバックしています。

確かにインプラントは骨と確実に結合しているので動きません。

しかしながら、年月を経てば人の顔にシワが出来たり、肌が弛んだり、
骨格に変化が顕れて本人にも他人目にも気がつかないかもしれませんが
突然、何十年振りの出会いに誰か判らぬ時があるように、
人間の身体というのは全く同じ様に細胞の再生は行われません。

骨と確りと結合しているインプラントではありますが、
何十年も経てば微妙に前後の歯との位置関係に差違が生じてきます。

私は将棋を打つのが好きです。

相手の手の先の先を何処まで読み取れるのかが勝負処です。

インプラント治療は将棋と似ています。

骨や周囲の歯の環境の変化を先読みして治療する醍醐味を私は楽しんでいます。

治療直後の状態に達成感はありますが、治療直後を治療前と比較すれば良いのは当たり前。

治療が終わってからが勝負だと私は思っています。

時が経てばインプラントメーカーが無くなっていたり、部品が変わってしまっていたり、
私は色々な経験を味わいました。
私が以前使っていたブローネマルク.インプラントとだけで何回もモデルチェンジを経験しましたし、
現在私の臨床の中心であるアストラテック.インプラントとだけでも四回はデザインが変わっています。

私のインプラント治療はデザインが如何に変化しようとも、部品の供給か断たれようとも
困る事はありません。

時に私の治療ではないインプラントのレスキューを依頼される機会があります。

道具は自身で調整するのが職人です。

適時、私は自家製ドライバーを製作できる様に工房を持っています。

インプラントは長持ちする治療です。

宮大工が何百年も前の建築物に挑む様に、私共専門職は常に挑戦し続けなければなりません。

私は専門職としてインプラント治療を信じています。

歯科治療における感染防止対策 その9.

【滅菌パック包装】

歯科の治療では詰め物や被せ物を入れる際にセメントを練ります。

使い捨ての紙で出来ている物は、他の患者さんの唾液や血液には汚染されていませんが、
無菌的とは言えませんし、見えない埃が必ずついています。
埃の中にはカビや雑菌が必ず生息しています。

歯の内部は他からの雑菌を持ち込む訳にはいきません。

私は患者さんに使用する器具は必ず写真の様に各々を滅菌パック包装しています。

患者さんに絶対に雑菌を持ち込むことのない気遣いは、
私自身の診療所の成功率を必然と上げてくれます。

予防歯科のすすめ その3.

食事の後、直ちに歯磨きしなければならないのか?

いいえ!それは口の中が酸性状態になっているために
歯の表面が磨り減ってしまうから
時間が少し過ぎてからの方が良い!等の論議を
このところ耳にします。

いかにも議論好きの日本人の言いそうな事だと私は笑っています。

いつ歯磨きするのか?の議論も良いですが、
歯磨きのタイミングとして絶対に譲れないのは就寝前です。

就寝中は、口の中を中性に保つ刺激時唾液である耳下腺からの唾液を期待できません。
また、口呼吸等により口の中が乾燥しがちになり、べとついた状態になります。

この時プラークが残っていれば細菌の絶好の温床となります。

食後の歯磨きについては、朝昼夜の食事に限らず、間食であっても
プラークを取り除く為には絶対に必要です。

食べたら直ちにか?どのくらい時間を経てからか?については
日々の暮らしのペースで考えれば良いことだと思います。

外食が常になりがちな方は、食事を済ませて職場に帰ってから歯を磨くとか、
私の様に時間に追われている開業医などは昼の5分や10分位の間に昼食を採るような
忙しい日々を送っていますので、当然の事ながら食べたら直ぐに歯を磨くしかありません。

何事も程度問題であると私は思っています。

最も大切な事は、キチンとプラークを取り除く歯磨きのテクニックを身につける事です。

このような単純な事が、案外、皆さん出来ていません。

大切なのはブラッシングのテクニックです。

3月2日にセミナーを開催します

3月2日(日)の午前10時から12時まで、高松市の四国ガスにて今年最初のセミナーを開催します。

場所が四国ガス?
不思議でしょう!

今まで歯科医向けのセミナーもあちこちで開催してきましたが、
今、私が力を入れているのは一般の方へのセミナーです。
但し、反省点も随分とありました。
専門家からの一方的な情報発信よりも、
実際的な患者さんの行動に結び付く啓蒙方法は無いものかと思案ばかりでした。

私は一般の方への気づきの切っ掛け造りをしたいと思っています。

何への気づきか?
健康への気づきです。

身体が健康であっても歯が悪ければ、美味しく食べる事はできません。
歯が丈夫であっても、身体が健康でなければ食事制限を強いられます。
糖尿病、高脂血症、痛風、アレルギー‥‥。

セミナーはそれぞれが一時間ずつの二部構成で行います。

前半は、今回は群馬パース大学医療科学部教授の浅見知市朗博士のお話しを。

後半は、四国中央市の仙龍寺の御内儀による寺料理の秘密として、みんなで実際に料理実習を行います。
連続ものの第一回目として今回は、基本となる調味料を造ります。
次回からは、この調味料を基本として献立を造ることになります。

身体と歯の健康のための知識の吸収と簡単に手間がかからない実際の取得によって、
健やかな食生活を営んで頂ける一助となれば臨床家として幸いです。

インプラント治療を受けるにあたって その3.

インプラント治療は随分と進歩したかの様に言われていますが、私はその様には思いません。

むしろインプラントをしたい歯科医と、少しでもインプラントを売りたい業者に
翻弄されていると危惧しています。

インプラントを必要とする状態に至ったという事は、歯を失ったという事です。

人工の物が神様の創られた物より優る筈はありません。

インプラント治療を行うならば、より慎重な姿勢で歯科医と患者さんは取り組まなければなりません。

治療時間の速さを競うより、

治療期間の短さを競うより、

治療費用の安さを唱うより、

身体への侵襲の低さと長持ちに最も重きを置かなければなりません。

インプラント治療をお考えの患者さん方へ、私はその辺りに、少し振り向いて立ち止まり、
歯科医と向き合って頂きたいのです。

予防歯科のすすめ その2.

人なみ以上に歯を磨いているのだけれど?
毎晩の歯みがきにはフッ素入りの歯磨材でキチンと歯磨きしているのに?
定期的に歯科医院でクリーニングしているのに?

でも、歯と歯の間が茶色く、あるいは白濁して、何故だろう?と
不思議な心持ちななった方はいらっしゃいませんか?

私は歯科医院でのクリーニングだけでは虫歯は防ぎきれないと思っています。
フッ素入りの歯磨材を使うだけで虫歯は防ぎきれないと思っています。

人それぞれに口腔の環境は違います。

1日に大勢の患者さんを診察しなければならない通常の形態の歯科医院業務では
患者さんそれぞれにあわせたオーダーメード医療は不可能である事は、
私が身をもって経験したからこそ、今の私の診療システムが出来上がりました。

患者さんの唾液の流れる方向と歯の位置関係、
唾液の量と性状、歯の石灰化度合い、細菌培養等々
色々な尺度から患者さんそれぞれにあった予防歯科のプログラムを作成します。

内科的な対応が必要な場合も多々あります。
食生活を含めた、患者さんにとって意外なチョッとした日常の改革を自覚して頂かねばならない時もあります。

本当に意味での予防歯科の真骨頂はこの辺りにあるのかもしれません。

歯医者まかせにするのではなく、
私は患者さんに自覚して頂く事に多くの時間を費やしています。

時には患者さんからの反発を受ける時もあります。
が、私の仕事は気を長く患者さんと向き合い繰り返し繰り返し、
時には手段を変えて、患者さんの気づきの切っ掛けを創る手当てをする、
これの積み重ねであると言っても過言ではありません。

私達、歯科医師は辛抱を要する歯科です。
決して私達から折れる事はありません。
患者さんが健やかな食生活を楽しめるために私達は決し諦めません。

インプラント治療を受けるにあたって その2.

スウェーデンのルンド大学の解剖学の研究室で、当時はまだ若き整形外科医であった
ブローネマルク博士が、骨折の際の骨の治り方を研究するために、ウサギの脚の骨の中に
チタン製の自家製顕微鏡を埋め込んで、骨の中の血の流れを観察しようとしたことが、
現在の骨結合型インプラントの始まりです。

一連の観察を終了した博士は、チタン製の自家製顕微鏡を再利用しようとウサギの脚の骨から
顕微鏡を取り出そうとした処、顕微鏡は骨としっかりと結合して取り外す事が出来ませんでした。

通常、生体以外の金属は免疫反応が働いて、身体と一体化することはありません。

驚いた博士は、チタンという金属は、生体に対して炎症反応や拒絶反応を起こす事なく、
結合するという仮説をたてて再び、研究を開始しました。

これがインプラント治療の始まりです。

1960年代初頭に、チタン製インプラントの人体への初めての応用が行われました。

34歳の男性の下顎に4本のインプラントが埋め込まれました。

身体の他の場所では無く、口腔にインプラントが用いられた意義は大変大きいものだと思います。

ブローネマルク博士は大変重要な考え方を示唆されています。

インプラント治療は、あくまでも異物の生体への移植治療です。

今ではインプラント取り扱い医院が増えましたが、ブローネマルク博士の理論で治療が進められている
医院は減りつつあります。

先生の名前を冠したインプラントも今では、当時のスタンダードなデザインや材質ではなくなりました。

生体は太古の昔から変わっておりません。

骨と上手に付き合う、骨を上手く扱う治療が長期のインプラント治療の成績を左右します。