最後の仕事


倅が幼い頃に買い与えたキャバリアのアール君が、イッキに弱ってきました。

アール君は、倅のある時代を伴にした倅の大切なパートナーでした。

先の東北大震災も、倅と逃げ切ったアール君です。

新潟の高校へと通う独り暮らしの倅の唯一の家族でも在りました。

ある時期、男という生き物は迷う性を持っています。

反して犬と云う生き物は、規則正しい習性を持つ生き物です。

若い男が、犬の世話を手抜きするのは当然の事かもしれません。

観かねた私が怒り爆発させてアール君を連れて帰ったのでした。

多頭飼いの我が家で、身体こそは小さいながらも、唯一の雄の犬でしたので、

身体大きなマリリンやラッシーを仕切っていたアール君でした。

普段はリビングで過ごしていたのですが、

弱ってからは、今は末の娘の部屋となった倅の部屋へと這いずって移動したアール君でした。

本能で、主人であった倅の匂いを嗅ぎとっての行動であることが判ります。

自分でエサも採らなくなりました。

エサを手で掬って口元へと運んでやって、私の手の匂いに反応して

掌を舐める所作で食事するアール君です。

ホンに犬と云う生き物は、忠実で誠実なと、

胸が熱くなり、涙を流して眺めています。

出来ることなら、倅の膝の上にて旅立たせてあげたいと

頭を撫で、身体を触れながら

犬を励まして娘らと過ごしています。

生き物には、終わりがあることを幼い娘らに

教えてくれる最後の仕事にかかったアール君です。