本音の処


東京都心で開業の若手の先生が、悩みに悩んで、

カール.ツァイスの顕微鏡を購入するかしまいかと、この数ヵ月は振り子のような心情が

伝わってきて、私の若い頃を思い出していたのです。

ー 銀行で借金して月々の支払いが幾らなんですが、先生、どうしましょう? ー

背中をグッと押してあげました。

都内に歯科医の数は数多と在れども、この先生程に情熱のある若い歯科医は居らんでしょう。

良い質の診察が出来るための出費が、すぐに収入に繋がる訳ではありません。

生活を切り詰めて、必要な道具を購入して、それを大切に大切に使い込んで

自分の身体の一部にするのが職人の日々のたしなみであります。

もっと、もっと上手になりたいという情熱は、

職人仕事には必須の条件です。

かく云う私も、お金には随分と苦労しました。

皆さんは信じられないと思われるでしょう。

私は治療に関しては、信念を曲げません。

長持ちさせるためには、どうする、こうするのノウハウは既に持ち合わせています。

ですから、遠くから皆さんがお越しになられるのだと思います。

先の東北大震災の年には、私の診療所の収入は大きく落ち込みました。

恐らく前年比比で7割り減少だっとと思います。

なぜか?って、ですか。

私の診療所の患者さんは、香川周辺に依存していないからです。

この年は苦しかったです。

この年に、勤務し始めた女性スタッフは、

完全に私をバカにしていましたね。

何故なら、この人には職人気質なり、医療人の誇りの欠片も理解出来ない、

ただお金が儲かることがスゴいことと云う価値観を持っている人だったからです。

最近の法律では、一度雇ったらなかなか首にできません。

ですから、グッとその面でも辛抱しました。

但し今になって自分でも感心しますのは、

幾らお金が苦しくても、どんなにお金に詰んでいても、

私は絶対に治療の質は安定させて、余計に知識の向上に努めて、金に走る行いはしませんでした。

他所では手が付けられない難しい症例の最後の砦でありたいという信念がありましたから。

今は、スタッフにも恵まれて、患者さんにも恵まれて、ありがたいと思っています。

スタッフの中に、一人でも腐った林檎が居れば、腐りは伝染します。

スタッフ教育という概念も確かにありますが、

最終的には、その人の能力なり適性がありますから、

全く向いていない人を幾ら必死で教育しても結果は見えていると思います。

但し、私ら自身の問題は、自分自身で幾らでも努力する事、我満、辛抱することで

解決できるのですから、ひたすら耐えることが肝要だと思います。

この若手の先生が、腕を研いて歯科を通じての社会貢献して下さる姿を

暖かい眼差しで見ています。