青い鳥


大半の歯科医は、

私の診療所には難しい大きな症例が集まって来ていると

思って居られるようです。

特殊な歯科医院だと。

そうかもしれません。

【本当に困った人の歯科医院】ですから。

ただ、

難症例に見えても、

丁寧に丁寧に紐解いていけば、

それは細かな病気の集合体でしかありません。

一つ一つの治療を、

基本に忠実に手当てすることで、

一見難しく見える病気であっても、

相手の方から

治し方を教えてくれるってもんだと、

今は、そのように思っています。

そう言えば、

嘗ての上司であった山口先生は超高齢者である御母堂の介護の傍ら、

臨床生活を過ごされて居られます。

朝の食事、ご自身のお昼の弁当作り。

電話口の向こう側から、

その調理の様相が伝わってきます。

男が一旦、厨房に入ると、

それは仕事へと変化するのです。

先生の下ごしらえは、玄人はだしの本格派であり、

夕刻になるとスーパーの見切り品へと走り、

出来合いのおかずを

平気で食卓に並べる主婦には、

到底、信じられない日常だと思います。

食が人間の基本であると、

私は思っています。

料理は、五感の鋭敏さと共に、

仕事の段取りへの工夫も求められます。

生命を維持させるための食事と言う認識は

私には到底、受け付けられません。

一品、一品に、

食べる人への心を込めることから、

料理と言う言葉には、

ある種の温かさを感じさせるのではないでしょうか?

豪華なレストランの食事が、すべて上手い訳ではありません。

雰囲気で食べることも、

時としては暮らしのエッセンスにはなりますが、

愛情表現の最も簡単な所作が、

私は料理にあると思っています。

暮らしにおいても、

様々な所作の積み重ねです。

歯科の仕事において、

一つ一つの細かな技術の積み重ねが大切であるように、

日々の暮らしにおいては、

食事が、その基本であると思っています。

てな話を、

息子と電話で会話していたら、

「 父ちゃん、青い鳥は居ないんだよ」