鬼手仏心


新患の患者さんの口腔の様相を

初めてソッと伺うに際して、

一体、今までどれ程ご苦労されたことか!と、

自分の事のように胸を傷める機会が増えたような気がいたします。

其れは、

患者さんがご自身の口腔に

決して無関心であったことが原因ではありません。

治療を為したる歯科医師と云う職業人の技量の未熟さが

否定したくても、

否定しきれない現状に至っていると思います。

経験不足なり、

自分の力量を遥かに越える症例に

手を出すことは、

医療人としての恥じだと思うのですが。

ですから、

私らは日頃から、

自分の限界点を否応なしに知り、

それ故に、

ますます自己の技量の向上のために

日々を過ごす努力を惜しんではならんのです。

今週、大きな手術を控えています。

未だに、

どのテクニックを用いるのか、

心定まってはおりません。

私にとっては日常の治療ですが、

患者さんにとっては、

生涯ただ一度だけの勇気を振り絞って手術に臨んで居られる訳です。

ですから、

最後の最後まで、

それこそ、

メスを手に、

粘膜にメスが触れる瞬間まで、

私は悩むでしょう。

が、

メスが軌跡を描いた瞬間から、

【鬼手仏心】の境地に在るのは云うまでもありません。